世の中の情報はすぐさま市場に取り込まれ、株価に反映されるという効率的市場仮説。この仮説では、現在の株価には世の中のあらゆる情報がすでに織り込まれており、今はまだ知られていない情報、今はまだ起きていない出来事が取り込まれることによってのみ、株価は変動することになる。もちろん、今はまだ知られていないその新たな情報や、今はまだ起きていないその新たな出来事が何なのかは、誰にもわからない。それゆえ、将来の株価が上昇するのか下降するのかは、現時点では誰にも予想できないことになる。こうして、効率的市場仮説は、株価は不規則に動くというランダムウォーク理論の論理的支柱として支持されるようになった。
この効率的市場仮説が説明することは、市場の動きは誰にも予測できないということ。このとても平凡な結論が、世の中にふたつの大きなインパクトを生じることになる。ひとつは、金融業界に大きな拒絶反応を引き起こしたこと。もうひとつは、市場平均を指標とするインデックスファンドの普及を促したことである。
ひとつめの金融業界による拒絶反応は、想像に難くない。将来の株価は理論上誰にも予測できないとする結論は、大リーガーを凌ぐような高年収を得るファンドマネジャーの存在意義を、やわらかく、理路整然と、完全に否定することになる。高額の報酬を得ながら、成果をあげられないでいるマネジャーは、自らの存在意義を理論的に否定するこの仮説を、大きな敵意を持って排除しようとしたわけだ。
ふたつめのインデックスファンドの普及促進は、効率的市場仮説が、市場全体の成長を否定していないことによる。将来株価がどう動くか予測はできないが、市場全体のパイは大きくなるとすれば、市場全体の銘柄をバランスよく保有し続けることで、市場全体の成長とともに、やがて資産も成長していくことになる。インデックスファンドの運用コストが極めて低いことも、資産の成長にプラスに作用する。こうして多くの個人投資家が、次第にファンドマネジャーの運用するアクティブファンドを離れ、市場連動型のインデックスファンドを支持し始めたのである。
これらふたつのインパクトが示すところは、インデックスファンドの出現が、金融業界からの大きな反発を招きながらも、次第に投資家の支持を得てきているという流れだ。そして実際に、インデックスファンドは結果を出している。S&P Globalによる2022年12月31日時点での調査では、過去15年間で市場平均を上回る成績を残した米国のアクティブファンドは、6.6%のみ。実に93.4%のアクティブファンドが、市場平均を下回る運用結果となっている。(S&P Dow Jone’s Indicesより引用)
先の読めない市場において、インデックスファンドは多くの人に希望を与える存在となる。多くの人にとって、世界経済が長期的に成長し続けることを信じられるかぎり、インデックスファンドに長期間投資しつづけることが最適解となる。インデックスファンドに投資し、市場の成長に任せる。これはとても簡単なことだ。しかしこの退屈なくらいの簡単さが、インデックスファンドへの投資継続に対する最大の障害ともなるのだが、それはまた改めて。