とうもろこしが好きで、夏にはよく食べる。高級品をデザートのように食べるのではなく、安いものを主食がわりにしっかり食べる。とうもろこしを食べて米を食べないという日もあるくらいだ。そういうわけで、少しでも安くて美味しいとうもろこしを探して、近くの産直市場や八百屋を回るのが、夏の間の日課のようになっている。とうもろこしの出荷は8月が最盛期で、お盆の頃を中心として短期間に大きく値段が動く。店によっても単価が随分違う。だから、とうもろこしを愛する生活者としては、仕入れ先を比較したり、新しい仕入れ先を開拓したりすることを、毎年怠らない。
5本で100円のとうもろこし
そんななか、昨年から通っている近所の八百屋さんで、とうもろこし5本を100円で購入できた。過去最安値だ。店先のカゴに、明らかに売れ残ったようなとうもろこしが積まれていて、ダンボールの紙に5本100円と書かれている。あまりの安さに一瞬目を疑ったが、店から出てきた年配の女性も、やはり同じとうもろこしを購入したようで、「小さいやつ選んだ方が粒の並び方が綺麗よ。皮は剥いてここに捨てていくとよろしい」とアドバイスをいただいた。お礼を伝えて、残りものを物色する。見た目には萎びたような感じがあるけれど、1本20円だと思えば問題ない。教えてもらったとおり、できるだけ小ぶりなものを選んで皮を剥き、店の中に入っていった。
店内は狭くて通路が一本。すれ違うこともできない小さな造り。でも、その時は夕方だったので、他にお客さんはいなかった。テレビの野球中継を見ている店主に声をかけ、念のため金額を確認する。5本100円で間違いない。ありがたく購入させてもらう。店主はとうもろこしを袋に詰めながら、「見た目はアレだけどさ、味はいいからさ」と、つぶやく。ものがあまり良くないことを、全く隠そうとしない。そんな様子に潔さを感じ、好感さえ抱く。蚊取り線香の香りもどこか懐かしい。夕暮れの八百屋さんでの、小さな昭和体験。
八百屋のよさ
帰ってきて早速塩茹でにした。安いだけあって、粒が揃っていないとうもろこしの見た目はイマイチだけど、主食がわりに食べる分には全く問題ない。美味しくいただいた。もう少し早い時間に行けば、もっといいものが手に入ったのかも知れないけれど、贈り物にするわけでもなし、自分でぼりぼり食べる分には十分。大体、野菜は安くなっている時が旬なように思う。美味しいものが大量に安く手に入る。年間を通して八百屋で安いものを選んで買っていれば、バランスよく美味しい野菜を順番に食べられる気がする。こういうことは、スーパーの野菜売り場ではなかなか感じられない。
最近はネットスーパーを多用している。ネットスーパーにしたのは、便利なことの他に、大きなスーパーでの混雑した環境や、レジで順番待ちしたりすることにストレスを感じるようになったから。でも、この八百屋さんに行くことは、苦にならない。だから、野菜が追加で欲しくなったときは、ここに買いに出かけている。
ほっとできる店
近くに、安くて気楽に出かけられる八百屋さんがあることは、心強い。三人も入れば身動きが取れなくなるような狭い店だけど、それくらいなら待てる。その間に新鮮で安い野菜も眺められる。だんだん会う人の顔ぶれもわかってくる。行くたびに少しホッとした気分になれる。おしゃれでなくてもいいから、そんな安心できるような、ふらっと立ち寄れるような、小さな店はとても貴重だ。大型店舗が近くにできても、コロナを経ても、何も変わらずそこにある近所の八百屋さん。ひそかに感謝し、頼りにしている。