海沿いにある日帰り温泉の休憩スペースで、小学校低学年くらいの女の子が、祖父と思われる初老の男性に、「ここの席がいちばんいいと思うよ」と声をかけていた。大きくはないけれど、よく通る澄んだ声。
休憩スペースには、空いているスペースはそこしかなかった。窓から遠く、大部屋の中央に位置してもたれかかる壁もなく、落ち着かない場所。そのときの二人には、そんな場所しか残っていなかった。しかしその場所を、いちばんいい場所だと思うよと、まるで二人で選んだかのように、祖父に勧めるように話しかける小さな女の子。澄んだ声に、とても温かいものを感じた。
人に聞かれることを全く意識せず、祖父と二人で家にいるときのような飾らない調子で話しかける女の子。その声には、優しさがあった。その子と祖父が、幸せでありますように。